堤清二という男

  セゾングループという一代で約200社という企業を生み出した堤清二の本を読みました。私の尊敬する経営者に存命中の稲盛和夫氏がいますが、日本には渋沢栄一松下幸之助出光佐三本田宗一郎井深大盛田昭夫といった歴代の名経営者がいて、その中に入れても遜色ない異彩を放つ印象を持ちました🤔

   流通業界においては百貨店・GMS・モール・専門店・コンビニ・アウトレットと、時代の変遷と共に様々な業態が生まれてきましたが、西武百貨店を筆頭に西友、パルコ、無印良品、ロフト、ファミリーマートという今でも知らない人はいない企業を堤清二という経営者は一挙に立ち上げたというのです。流通革命を起こしたダイエー中内功や、セブンイレブンでセブン&アイグループを日本一にした鈴木敏文(もちろん創業者の伊藤雅俊)、関西で言えば宝塚歌劇団を作った阪急の小林一三も素晴らしかったと思いますが、堤清二にはアートやカルチャーといったライフスタイルを強く感じます。

   典型が無印良品だそうで、西武百貨店ではブランドを導入して成功するも、それを否定すべく西友から「わけあって安い」と自主企画を打ち出したのです。堤清二は何度も自己否定を繰り返し、新たなモノを創造してきたようです。しかもパルコなどは劇場やら映画やら正に文化を作ろうと、モノからコトへ先取りしてきたとの事です。確かにチケットセゾンやらリブロといった書店など記憶にあります。セゾン文化を世に生み出したと言えましょう。

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  しかし、彼が本当に経営者として評価されるかというと功罪があります。やはり不動産の過剰投資で失敗するのです。ホテルやリゾート開発などは理念先行だったように思います。堤家という父親から受け継いだ異母兄弟の因縁も、不動産に走った一因だったかもしれません。経営者としては最後にグループ解体の責任を問われました。西武百貨店やロフトはセブン&アイ、西友ウォルマートファミリーマート伊藤忠などに売却されてます。諸行無常という話です。

   そうだとしても今でもそのDNAは残っているらしく、クレディセゾンがその一つのようです。そのDNAとは欧米と一線を隠した人間尊重主義と言えるでしょう。どうも堤清二社会主義と言うそうですが、画一的なチェーンオペレーションを嫌ったようです。作家として本も書いていたので頭が良すぎるのでしょうが、量販に対して質販だとか現場に落とし込むのが難しいコンセプトを描いたりしてます。天の邪鬼と言ってますが、破綻した吉野家を買収した話は傑作です。チェーンを嫌いながら何故牛丼屋を救済するのか、誰もが反対する中、その反対を押し切って吉野家を再生させたのです。

   「皆さんは、セゾングループの人たちに対して引け目を感じる必要はありません」と挨拶されたそうですが、この大衆に寄り添う心づかいには感動します。要は裸の王様になるまいという反権威主義です。常に最後まで自己否定を繰り返し、自分の趣味趣向と違う文化まで受け入れるのです。自分の思いに走る経営者が多い中、この姿勢には頭が下がります🙇

   資本の論理でなく人間の論理を掲げ、百貨店ではどこよりも先んじてショップマスター制度を設けピラミッド型の組織を破壊したという事です。上下関係にとらわれない組織づくりは今でも十分通用します。生活者の自由の確保というコンセプトを無印で作ったにも関わらず、それがブランドとなり兼ねない自己矛盾も、登りつめたらそこから崩壊するという真理を表してるのではないでしょうか。

   時代を生き抜くヒントを得られた気がします。では、今回は読書感想文という事で👋